黙示録の四騎士:自己弁護
関係を蝕む四騎士③:「自己弁護」- なぜあなたの「でも」「だって」は相手を追い詰めるのか?
ゴットマン博士が提唱する、夫婦関係を破局へと導く4つの危険なコミュニケーションパターン「黙示録の四騎士」。最初の騎士「批判」、二番目の騎士「侮辱」に続き、今回は三番目の騎士である**「自己弁護(Defensiveness)」**について掘り下げていきます。
パートナーから不満を言われたとき、私たちはつい「でも、だって…」「君だって〇〇じゃないか」と自分を守ろうとします。これは一見、ごく自然な反応に思えるかもしれません。しかし、この「自己弁護」こそが、相手をさらに追い詰め、夫婦の溝を決定的に深めてしまう恐ろしい騎士なのです。
「自己弁護」は隠された非難のメッセージ
なぜ自己弁護は関係にとって有害なのでしょうか。
それは、自己弁護が**「問題は私ではなく、あなたにある」という、責任転嫁のメッセージを暗に送っている**からです。言葉の上では自分を守っているように見えても、その実態は相手への反撃にほかなりません。
本書でゴットマン博士は、このメカニズムを明確に指摘しています。
「自己弁護は、実際にはパートナーを非難する一つの方法なのです。あなたは事実上、『問題は私じゃない、君だ』と言っているのです。」
引用元: 『The Seven Principles for Making Marriage Work』
このメッセージを受け取ったパートナーが、攻撃を緩めることはまずありません。むしろ、「自分の言い分が全く伝わっていない」と感じ、さらに強い言葉であなたを責めるか、あるいは心を閉ざしてしまうでしょう。自己弁護は、対立を鎮めるどころか、火に油を注ぐ行為なのです。
自己弁護には、いくつかの典型的なパターンがあります。
- 無実の被害者を装う:「なんでいつも私ばっかり責めるの?」「こっちはこんなに頑張っているのに…」と、自分を哀れな犠牲者として描き出すことで、相手に罪悪感を抱かせようとします。
- 反撃する(Cross-complaining):相手の不満に対し、こちらも相手への不満をぶつけ返すパターンです。
- ×:「どうして洗い物をしてくれないの?」→「君こそ、昨日ゴミを出し忘れたじゃないか!」
これらは、どちらも問題の解決から遠ざかり、非難の応酬という泥沼にはまっていく典型例です。
カウンセリングの現場から見る「自己弁護」の連鎖
本書に登場するピーターとシンシアの夫婦は、車の洗い方をめぐって口論になります。シンシアは、夫のピーターにもっと協力してほしいと伝えますが、ピーターの反応は自己弁護のオンパレードでした。
シンシア:「私が自分の車を洗うのを手伝ってくれたら、本当に嬉しいんだけど。」
ピーター:「君は僕のトラックを何回洗ってくれたことがあるんだ?」
シンシアの歩み寄りの言葉に対し、ピーターは「君だってやってないじゃないか」と反撃します。彼はシンシアの気持ちを受け止めるのではなく、自分の正当性を主張することに終始しました。このようなやり取りでは、お互いの心が通い合うはずがありません。
自己弁護の連鎖を断ち切るために
では、この負の連鎖を断ち切るにはどうすればよいのでしょうか。
答えはシンプルですが、実行するには勇気がいります。それは、**「相手の主張の一部でもいいから、責任を認めること」**です。
パートナーが何か不満を口にしたとき、たとえそれがあなたにとって不本意なことであっても、まずは反論せずに耳を傾けてみましょう。そして、相手の言い分の中に、少しでも同意できる点を探すのです。
×:「あなたの言い分は分かるけど、でも私だって…」
〇:「そうか、あなたはそう感じていたんだね。あなたの言うことにも一理ある。」
たとえ全面的に同意できなくても、「君の気持ちは分かったよ」「たしかに、私のやり方にも悪い点があったかもしれない」と、ほんの少しでも相手の視点を受け入れる姿勢を見せるだけで、相手の態度は劇的に軟化します。
重要なのは、どちらが「正しい」かを決めることではなく、お互いが「尊重されている」と感じられる状況を作ることです。自己弁護は、自分を正当化し、相手を打ち負かすためのコミュニケーションです。しかし、夫婦関係は勝ち負けを争う場ではありません。もしあなたの言葉が「でも」「だって」「あなたこそ」で始まっていたら、それは自己弁護の騎士が登場したサイン。一度立ち止まり、相手の言葉を受け止める勇気を持つことが、二人を破局から救う第一歩となるのです。
“The Seven Principles for Making Marriage Work”, John Gottman, 1999
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更新日: 2026年1月7日

