「またケンカになっちゃった」「どうしてちゃんと伝わらないの?」------そんなふうに悩む夫婦の多くは、問題そのものよりも「どう話し合っているか」でつまずいていることがあります。 ジョン・ゴットマン博士は、解決可能な問題に対しては5つの具体的なステップを実践することで、建設的な対話と解決に導けると提唱しています(Gottman & Silver, 1999)。ここではその5ステップを、実例を交えて解説していきます。
ステップ1:柔らかく、優しい口調で話を切り出す
感情的な言葉で会話を始めると、相手はすぐに身構えてしまいます。怒りや批判から入ると、防衛反応や反発が生まれやすくなります。これを心理学では「ハーシュ・スタートアップ(harsh startup)」と呼び、関係の悪化につながる第一歩とされています。 ×「どうしてまた片づけてないの?言ったよね?」→〇「最近ちょっと気になってることがあって、今話しても大丈夫かな?」
このように会話の出だしがやさしいだけで、その後のやりとりがまったく変わってきます。以下の7つのコツが”ソフトな切り出し”に役立ちます:
- 攻撃しない伝え方 — 不満を言っても、相手を非難しない 「非攻撃的自己開示(Non-aggressive self-disclosure)」を意識して、気持ちをそのまま伝える。 例:×「なんでいつもあなたってそうなの?」→ 〇「正直に言うと、ちょっと悲しい気持ちになったの」
2. 主語を”私”にする — 「あなた」ではなく「私は」で話す
これは、「Iメッセージ」と呼ばれ、トマス・ゴードン(1970)が提唱した、自分の感情を率直に伝えるための方法です。アサーティブ・コミュニケーションの基礎として知られています。
例:×「君って本当にだらしないね(相手が主語)」→ 〇「僕は部屋が片付いていないのを見ると、ちょっと落ち着かないんだ(主語を私にする)」
3. 事実と解釈を分ける — 評価や決めつけをしない
非暴力的なコミュニケーション(NVC)を意識し、評価をせずに客観的な事実だけを捉えることが重要です。
×「最近帰ってくるのが遅いよね、あなたは家に帰りたくないんでしょ?(決めつけ)」→〇「今週は3日間、帰宅が22時をすぎているね(事実を伝える)。私は帰りを待つ時、ずっと不安だったよ(主語を私にする)。」
4. 具体的に伝える — あいまいにせず、はっきり伝える 例:×「もっとちゃんとしてよ(あいまい)。」→ 〇「ご飯のあとは、お皿を洗ってもらえると助かるな(具体的に伝える)。」
5. 丁寧にお願いする —相手の尊厳を尊重することはコミュニケーションをする上で大切
人は尊厳を傷つけられると防衛的になり、円滑なコミュニケーションが難しくなる。 例:×「なんでごみ捨ててないの?あなたって本当にだらしないよね(相手の尊厳や人格を傷つける)」→〇「もし余裕があったらなんだけど(丁寧にお願い)、ゴミ出しお願いしてもいい?」
6. 感謝を伝える — 感謝は心理的資源として関係満足度を高める(Algoe, 2012) 例:〇「洗濯干しといてくれてありがとう。とても助かったよ」
7. その都度話す — 自身の感情の昂りを整える感情調整(Gross, 1998)の観点でも重要 例:×「あの時だってそうだった!あなたはいつもそう!」→〇「今の言い方、ちょっと気になるんだけど…今話しても大丈夫かな?」
ステップ2:相手の”修復行動”を受け入れる**(Repair Attempts)**
「言い過ぎたかも」「ちょっと落ち着こうか」など、話し合いの途中で出てくる”修復サイン”は、2人の関係を守るブレーキです。 しかし、怒りのままそれを無視してしまうと、傷が深まってしまいます。
1.言い争いが起きる (例)「なんでまた時間に遅れるんだよ」
2.相手が修復努力をする
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素直に謝る 例:「ごめん、ちゃんと時間配分考えればよかったよ」
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大した意味などないくだらない冗談を言う 例:「私って、時空がゆがんでるのかもね(笑)」
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夫婦間でしかやらない変顔をする 例:(ふざけてウインク+変顔)「許してくれたら今日の夜ごはんはあなたの好きなやつにする♡」
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解決方法を提案する 例:「次は15分早めに準備始めるって決めとこうか」
3.自分が相手の修復努力に乗っかる 例:「まあ…今回はいいけど、次はよろしくね。今日は唐揚げで(ふざけてウインク+変顔)」
空気を和らげる感情のクッションを入れることで、相手への信頼と対話の継続性が保たれます。修復行動を”受け止める力”も、良好な関係を育む上での重要な一部です(Brackett et al., 2006)。
ステップ3:互いに”譲歩できるところ”を探す**(Accept Influence)**
話し合いの目的は、勝ち負けを決めることではなく、「2人にとって最善の選択肢」を見つけること。 すべてを譲る必要はありませんが、「絶対に譲れない部分」と「相手に合わせられる部分」を見極める視点が大切です。
心理学ではこのような力を”心理的柔軟性”と呼び、夫婦関係の満足度とも深い関連があるとされています(Kashdan & Rottenberg, 2010)。
ステップ4:相違点を丁寧に話し合う**(Accept Differences)**
違いを否定するのではなく、「知ろうとする姿勢」が、理解の第一歩になります。 自分と異なる価値観を聞くのは、少し怖さや戸惑いもあるかもしれません。 でも「あなたってそうなんだね」と言える関係は、とても安心感のあるものです。
(例)パートナーの運転がスピードを出しすぎている
×「あなたは運転が荒すぎる(あなたはと決めつけ)。二人が事故で死ぬ前にもう少しスピードを落としてよ。」→
〇「スピードを出すのが気持ちいいのはわかるよ。けど、制限速度以上にスピードが上がると、私は胸がどきどきして頭が痛くなるの(主語を私にする)。速度を落としてくれないかしら?」
パートナーは、あなたから悪く判断され、誤解され、拒否されている状態では、助言や要求を受け入れ問題を解決することは難しいでしょう。相手を非難するよりも私の気持ちも理解してと頼む方がより効果的です。
問題解決の基本はパートナーの人格を認め合うという心の交流にあります。
共感的理解(empathetic understanding)という姿勢は、信頼と心理的安全性を高める基盤となります(Rogers, 1951/Edmondson, 1999)。
まずは相違点を話し合い、パートナーを理解するところから始めます。
あなたがパートナーを理解していると、日常的に言葉や行動で示すことが大切です。
そうするとあなたが伝えたい運転の仕方、家事の分担、セックスの仕方などの要求も通りやすくなります。
・ステップ5:“建設的な妥協”に努め、2人にとって最善の方法を探る(Make Compromises)
対話を重ねる中で、相手の考えも自分の気持ちも、すべてが一致することは少ないかもしれません。だからこそ、関係を前に進めるためには「妥協する力」が必要です。ゴットマン博士は、パートナーシップにおける問題解決の鍵として、「譲り合いの姿勢」を挙げています(Gottman & Silver, 1999)。これは単に我慢することではなく、お互いにとって大事なところ・譲れるところを見極めながら、現実的な折り合いをつける力です。
また、すり合わせの中でパートナーがうまく対応できなかったとき、「ほら、やっぱり無理じゃない」と責めるのではなく、**“失敗に寛大であること”**も大切な態度です。
(例)
「忘れちゃったのは残念だったけど、気にしてくれてたのは伝わったよ」 「うまくいかなかったけど、次は一緒に工夫してみようか」
こうした思いやりと柔軟性のあるやり取りが、ふたりの間に安心感と信頼を育てていきます。
おわりに
問題が起きたときこそ、2人で向き合う力を育てるチャンスです。
今回紹介した5つのステップは、難しいテクニックではなく、日々の中で誰でも実践できる”コミュニケーションの型”です。特に、解決可能な問題に対しては、こうした丁寧なやりとりの積み重ねが、関係をより良い方向へ導いてくれます。
もちろん、すべての問題が”完全に解決”するとは限りません。中には永続的に続くテーマもあります。
それでも、「どう話し合うか」「どう違いを受け止め合うか」という姿勢が、夫婦の絆を深めてくれるはずです。
日々の会話に、そっと取り入れてみてください。空気が少しずつ、やさしく温かなものへと変わっていくはずです。
更新日: 2026年1月7日