17. 親となる
■ はじめに:親になった瞬間、夫婦は”新しいステージ”に立つ
赤ちゃんが生まれると、それまでの夫婦関係は大きく変化します。 ジョン・ゴットマン博士は、**「親になることは、結婚生活の質に直接影響を与える転機」**と述べ、意図的に夫婦の絆を強めないと、関係が悪化しやすいと指摘しています。
これは、発達心理学で言う**「アイデンティティの再構築(Identity Reconstruction)」**にあたります。 これまでの「夫・妻」という役割に加え、「父・母」という新しい自分を受け入れるには、時間と意識的な適応が必要になるのです。
■ なぜすれ違いが生まれやすいのか?
- 「母親モード」の固定化:妻は妊娠・出産を経て自然と母性が高まり、子ども中心の生活に没頭しやすくなる
「父親の居場所」が見えなくなる:夫は家庭内で自分の役割が見出せず、心が離れやすくなる
- 「ねぎらいと感謝」の不足:お互いに疲弊し、思いやりの言葉が減っていく
実際にゴットマン博士の研究では、夫婦の67%が第一子誕生後、結婚生活の質が低下したと報告されています。
■ 父親は”いつまでも必要な存在”
妻が母性に包まれているとき、夫は「自分は必要ないのでは」と疎外感を抱きやすくなります。 しかし、育児期こそ父親の役割は重要です。
また、女性は十月十日かけて「母になる準備」ができる一方で、父親は赤ちゃんが生まれて初めて”父親としての自覚”を持つものです。 そのため、妻の急激な変化についていけず、戸惑いを感じることも少なくありません。
ここで重要なのが、父親の**「変わろうとする姿勢」**です。 夫は父親として変化する柔軟さを持つこと、妻は夫の成長を温かく見守り、急な変化を求めすぎない寛容さを持つこと。 このバランスが、ふたりの心の距離を保つカギになります。
さらに、最新の神経科学では、父親もスキンシップや共同作業を通じてオキシトシン(愛着ホルモン)の分泌が促されることがわかっています。 「自分には向いていない」と思わず、赤ちゃんとのふれあいの中で”父親らしさ”を育てていくことが大切です。
一方で、母親は妊娠・出産・授乳を通じてオキシトシンが自然に分泌されることで、子どもへの愛着が深まりやすい反面、防衛的・攻撃的になりやすいという側面もあります。 ゆえに、時に夫への言葉がきつくなったり、妻が変わってしまったように感じることもあるかもしれません。 しかしこれは、「子どもを守らなければ」という本能的な、いわば自然な反応によるもので、決して性格や愛情の問題ではありません。 だからこそ、夫婦の間でお互いの変化を理解し合い、必要以上に衝突しないための**“心のクッション”を意識的に作る**ことが大切です。
■ チームとしての意識を忘れない
- 「私たちは、子どもにとって最良のチーム」という意識を共有する
- 夫は積極的に育児に参加し、父親としての存在感を持つ
- 妻は夫の努力に感謝を伝え、父親としての役割を肯定する
また、夫婦で「どうやって役割を分担するか」だけでなく**、「どうやってふたりの時間を守るか」**を話し合うことも大切です。
■ ゴットマン博士の「リチュアル・オブ・コネクション」
ふたりのつながりを保つためには、**「小さな儀式=リチュアル」**を日常に取り入れることが効果的です。
- 毎晩5分、今日の出来事を話す時間を作る
- 子どもが寝た後、必ず一緒にお茶を飲む時間を持つ
- 週末に短時間でもふたりだけの外出をする
こうした小さな習慣が、夫婦の**「情動的なセーフティネット(Emotional Safety Net)」**となり、困難な時期を乗り越える大きな支えになります。
■ 子どもへの影響 〜「安全基地理論(Secure Base Theory)」より〜
心理学者ボウルビィが提唱した「安全基地理論」では、親の安定した関係性は子どもの情緒的な安心感を育むとされています。 仲の良い両親の姿を見て育つことで、子どもは自信を持って外の世界に挑戦できるようになります。
つまり、「親になること」は、ただ子どもを育てるだけでなく、自分たち夫婦の関係を整え直すことでもあるのです。
■ 会話例
◾️会話例 〇「毎日ほんとにバタバタだね。ちょっとだけでも、ふたりでひと息つける時間持とうか。」 ×「子どもが寝てるうちに家事やるのが先でしょ。」 〇「沐浴してくれてありがとう。赤ちゃんも気持ちよさそうだったね。」 ×「なんでそんなやり方するの?見てて不安なんだけど。」 ■ さいごに
親になることは、夫婦関係にとって最大の試練であり、同時に成長のチャンスでもあります。 ふたりの絆を守るためには、意図的に「夫婦としての時間」を作り、お互いをねぎらい合うことが欠かせません。
子どもにとって最良の環境は、「仲の良い両親」の姿を見せること。 そのためにも、まずは今日、ふたりで「ありがとう」を交わすところから始めてみませんか?
更新日: 2026年1月10日