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23 夫婦というチームの文化を育む:原則7「共通の意義を創造する」

23 夫婦というチームの文化を育む:原則7「共通の意義を創造する」

夫婦関係を科学的に分析してきた心理学者ジョン・ゴットマン博士は、離婚に至るカップルの会話パターンを驚くほどの精度で予測できることを発見しました。しかし彼の研究の真髄は、破局の予測ではなく、幸福な結婚生活を築き、維持するための具体的な方法を提示したことにあります。

これまでの原則を実践することで、多くの夫婦は対立を減らし、安定した関係を築くことができるでしょう。しかし、中には「関係は安定しているし、お互いを愛している。でも、何かが足りない気がする…」と感じる夫婦もいます。それはまるで、仲の良いルームメイトと暮らしているような感覚かもしれません。

この「何か」の正体こそ、ゴットマン博士が提唱する第七の原則「共通の意義を創造する(Create Shared Meaning)」です。結婚とは、単に子育てや家事を分担し、愛を交わすだけの関係ではありません。それ以上に、二人だけの精神的な側面、すなわち独自の「文化」を育んでいくという深い次元が存在するのです。

二人だけの「マイクロカルチャー」を創造する

文化と聞くと、国や民族といった大きな共同体を思い浮かべるかもしれません。しかしゴットマン博士は、たった二人の夫婦からでも独自の「マイクロカルチャー(小文化)」は生まれると指摘します。それは、二人が共有する内面的な生活であり、関係に深い意味を与えるものです。

このマイクロカルチャーは、以下のような要素で構成されています。

  • 習慣(Customs): 「日曜の夜は決まって外食する」など、二人にとっての決まりごと。
  • 儀式(Rituals): 「子どもの誕生日には必ず家族でケーキを焼く」「結婚記念日には最初のデートの場所へ行く」など、象徴的な意味を持つ行動。
  • 神話(Myths): 「私たちは二人とも実家では”出来損ない”扱いだったけど、誰よりも幸せな家庭を築いたよね」というように、夫婦が自分たちの関係について語る、真実や少し脚色されたストーリー。

例えば、ゴットマン博士が調査したある夫婦は、自分たちを「一族のはみ出し者だったが、最も成功したチーム」と見なす「神話」を持っていました。この共通の物語が、彼らの連帯感を強め、困難に立ち向かう力となっていたのです。

重要なのは、全ての価値観を無理に一致させることではありません。

× 悪い例: 相手に自分の価値観を押し付け、同じであることを強要する。

〇 良い例: お互いの考え方や夢が違うことを認め、尊重し、二人だけの新しい文化へと織り交ぜていく(meshing)

このマイクロカルチャーが豊かになるほど、夫婦は単なる個人の集まりから、強い絆で結ばれた「チーム」へと進化していくのです。

共通の意義を支える「4つの柱」

では、どうすれば二人だけの文化を育むことができるのでしょうか。ゴットマン博士は、そのための具体的な指針として**「4つの柱」**を挙げています。自分たちの関係にどの柱が足りないかを意識することで、より効果的に絆を深めることができます。

① つながりのための儀式(Rituals of Connection)

私たちの生活は、意識しないとすぐに日々のタスクに追われ、夫婦のつながりは希薄になりがちです。だからこそ、意識的に「儀式」を取り入れることが重要になります。儀式とは、二人にとって特別で、楽しみにできる構造化された習慣のことです。

  • 毎日の儀式: 就寝前の会話、行ってきますのキス、一日の出来事を報告しあう時間。
  • 毎週の儀式: 週末のデート、一緒に料理をする時間。
  • 毎年の儀式: 結婚記念日や誕生日の祝い方、家族旅行。

ゴットマン博士夫妻は、15年間、毎年同じベッド&ブレックファストで「ハネムーン」を過ごす儀式を続けているそうです。このような儀式は、二人がお互いに向き合い、つながりを再確認するための大切な時間となります。

② お互いの役割へのサポート(Support for Each Other’s Roles)

私たちは皆、夫や妻、親、あるいは特定の職業人として、人生で様々な「役割」を担っています。お互いがそれぞれの役割をどう捉え、何を大切にしているかを理解し、サポートし合うことは、共通の意義を築く上で不可欠です。

例えば、夫が「家族を守る稼ぎ手」としての役割に誇りを持っているなら、妻はその価値観を尊重する。妻が「子どもを育む母」としての役割を大切に思うなら、夫はその役割をサポートする。もちろん、その逆も然りです。役割に対するお互いの期待が一致し、尊重し合えるとき、関係はより深いレベルで安定します。

③ 共通の目標(Shared Goals)

家を買う、子どもを特定の学校へ行かせるといった具体的な目標から、「人の役に立つ人生を送りたい」「穏やかな老後を迎えたい」といった精神的な目標まで、夫婦が共有できる目標を持つことは、二人を同じ方向へ向かせる強力な力となります。

大切なのは、お互いの個人的な夢や目標を尊重することです。パートナーの夢が自分の夢と違っても、それを否定せず、どうすれば応援できるかを考えます。そうした姿勢が、結果的に二人で協力して達成できる「共通の目標」を生み出す土台となるのです。

④ 共通の価値観とシンボル(Shared Values and Symbols)

「4つの柱」の最後にして最も深いものが、人生の指針となる「価値観」や哲学を共有することです。それは信仰に関わることかもしれませんし、家族、正直さ、あるいは冒険といった、二人が人生で最も大切にしたい信条かもしれません。

そして、こうした価値観は、しばしば具体的な「シンボル」によって表現されます。

  • 家族の写真: 家族の歴史とつながりの象徴。
  • 食卓テーブル: 家族団らん、温かさ、安定の象徴。
  • 先祖の物語: 代々受け継がれてきた価値観(誠実さ、寛大さなど)の象徴。

ヘレンとケビンの夫婦は、ケビンの祖母が恐慌時代に貧しい人々に食料を分け与えた話を共有することで、「寛大さ」という共通の価値観を再確認しました。このように、家族の物語やシンボルについて語り合うことは、二人の価値観を融合させ、文化を豊かにする重要なプロセスです。

結婚生活に真の充足感を得るためには、対立を乗り越えるスキルだけでなく、二人で分かち合える深い「意義」を創造することが欠かせません。それは一夜にして成し遂げられるものではなく、生涯続く探求の旅です。しかし、お互いの夢や価値観に心を開き、対話を続けることで、二人の関係はより豊かで、喜びに満ちたものへと成長していくことでしょう。

更新日: 2026年1月10日

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