ノートPCを操作する人

18-1 スマホが夫婦を分断する?デジタル時代の「テクノロジー・エチケット」

18-1 スマホが夫婦を分断する?デジタル時代の「テクノロジー・エチケット」

私たちの生活に深く浸透したスマートフォンやインターネット。これらは情報収集やコミュニケーションを便利にする一方で、最も身近な人間関係である「夫婦」の間に、新たな壁を生み出す要因になっていることをご存知でしょうか。

夫婦関係の世界的権威であるジョン・ゴットマン博士は、長年の研究から、この「テクノロジーによる分断」が現代の夫婦にとって無視できない重要な課題であると指摘しています。今回は博士の研究を基に、なぜスマホが夫婦関係の敵になり得るのか、そして二人の絆を守るために私たちが何をすべきかについて、心理学的な観点から探っていきましょう。

夫婦の会話は週にたった35分?見過ごされる「つながり」の危機

「最近、夫婦の会話が減ったな」と感じることはありませんか。それは単なる気のせいではないかもしれません。

ゴットマン博士の研究協力者たちが、ある若いプロフェッショナル夫婦の生活を24時間体制で観察したところ、衝撃的な事実が明らかになりました。彼らが一週間で実際に会話を交わした時間は、合計でわずか35分だったのです。さらに、その会話のほとんどは「ゴミ出しは誰がする?」「子どもの送り迎えはどうする?」といった、いわゆる「用事の話」でした。

心理学的に見ると、これは単なるコミュニケーション不足以上の深刻な問題をはらんでいます。夫婦関係の幸福度や安定性は、日常のささいなやり取りの中で育まれる**「感情的なつながり」に大きく依存するからです。ゴットマン博士は、パートナーからの関心を求める働きかけを「ビッド(bid)」**と呼び、これにどう応えるかが関係の行方を左右すると言います。

たとえば、パートナーが「見て、面白いニュースがあるよ」とスマホの画面を見せてきたとき、あなたはどう反応するでしょうか。

  • × 悪い例:自分のスマホから目を離さず、「ふーん」と生返事をする。
  • 〇 良い例:一度スマホを置いて相手の顔を見て、「へえ、どんなニュース?」と関心を示す。

悪い例の対応は、相手の「ビッド」を無視し、拒絶する行為です。たとえ悪気がなくても、相手の心には「自分は大切にされていない」という寂しさや不満が蓄積していきます。そして、この小さなすれ違いの積み重ねが、やがては大きな溝となって二人を分断していくのです。

対立の原因は「悪意」ではなく「無関心」

多くの場合、夫婦の一方がスマホに夢中になっているとき、そこに「パートナーをないがしろにしてやろう」という悪意はありません。むしろ問題なのは、お互いの行動を「悪意なく」行ってしまい、そのすれ違いに気づけないことです。

あるカウンセリングの事例では、夫がリビングでくつろいでいると、妻が「またスマホばっかり!私の話を聞いてるの?」と不満を爆発させました。夫からすれば、「ただ仕事のメールをチェックしていただけなのに、なぜそんなに怒るんだ?」と理不尽に感じます。

しかし、妻の視点から見ると、その光景は全く違って見えます。彼女は、夫が自分よりもスマホの画面に集中している姿を見て、「自分は夫にとって優先順位が低い存在なのだ」という疎外感や寂しさを感じていたのです。

このように、一方は「単なる情報収集」、もう一方は「愛情の欠如」と、同じ状況でも全く異なる心理的な意味づけをしていることがあります。この認識のズレこそが、テクノロジーが引き起こす夫婦問題の根源にあるのです。

二人の絆を守る「テクノロジー・エチケット」を確立しよう

では、どうすればこの問題を防ぐことができるのでしょうか。ゴットマン博士は、夫婦で話し合い、二人だけの「テクノロジー・エチケット(礼儀作法)」を確立することを強く推奨しています。

重要なのは、一方がもう一方にルールを押し付けるのではなく、「二人の関係を守るため」という共通の目的を持って、一緒にルールを考えることです。

【ルール作りの具体例】

  • 食事中のルール
    • ×:食事中にパートナーがスマホを見ていたら、不機嫌な顔で「やめなさいよ」と非難する。
    • 〇:「食事の時間は、お互いの顔を見て話す大切な時間にしない?スマホはテーブルの端に置いておこう」と提案し、二人で合意する。
  • 就寝前のルール
    • ×:ベッドに入っても延々と動画を見ているパートナーに、無言で背を向ける。
    • 〇:「寝る前の30分は、スマホを触らずに今日あったことを話したり、一緒にリラックスしたりする時間にしたいな」と、自分の気持ち(I-message)を伝えて相談する。
  • 会話中のルール
    • ×:相手が話しかけてきても、SNSのチェックを中断せずに上の空で相槌を打つ。
    • 〇:パートナーが話しかけてきたら、一旦スマホを置き、「ごめん、どうぞ」と相手に意識を集中させる。

ゴットマン博士は、「私たちは教会や映画館ではごく自然にスマートフォンの電源を切るのに、なぜ最も大切なパートナーに対して同じ敬意を払えないのでしょうか」と問いかけています。まさにその通りで、テクノロジー・エチケットの根底にあるのは、相手への敬意と思いやりなのです。

現代の夫婦にとって、テクノロジーとの付き合い方を考えることは、家事の分担やお金の管理と同じくらい重要なテーマです。もし、あなたの家庭でも心当たりがあるなら、まずは「私たちのスマホの使い方について、少し話さない?」と、穏やかに会話を始めることから試してみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、二人の絆をより深く、確かなものにしてくれるはずです。

更新日: 2026年1月7日

関連記事