並んで描かれた壁のハート

17-2 対立解決5ステップ④:Win-Winを目指す最強の武器「二つの円」による妥協術

17-2 対立解決5ステップ④:Win-Winを目指す最強の武器「二つの円」による妥協術

夫婦や恋人との間で対立が起こったとき、「なぜ自分の正しさを分かってくれないんだ!」と憤りを感じた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。私たちは、自分の主張が「正論」で、相手の主張は「間違っている」と考えがちです。しかし、心理学の観点から見ると、この**「正しさ」をめぐる争いこそが、関係を悪化させる最大の要因**なのです。

夫婦関係の世界的権威であるジョン・ゴットマン博士は、40年以上にわたる研究で、幸福な結婚生活を送るカップルは、必ずしも常に対立を「解決」しているわけではないことを発見しました。彼らが持っているのは、対立を解決する能力ではなく、**お互いが傷つかずに問題と付き合っていく「対話の技術」**です。

今回は、博士が提唱する対立解決の5ステップのうち、4番目のステップである**「妥協」**に焦点を当てます。特に、どんなカップルでも実践できる画期的な対話ツール「二つの円」メソッドをご紹介します。

妥協の成否を分ける「たった一つの前提条件」

多くのカップルが妥協に失敗するのはなぜでしょうか。それは、妥協の前提となる「ある姿勢」が欠けているからです。

妥協の土台にあるのは、第四の原則「相手の影響を受け入れる」ことだ。

ゴットマン博士はそう断言します。妥協とは、単に自分の意見を諦めることではありません。相手の意見や感情に心を開き、「あなたの考えにも一理あるかもしれない」と検討する姿勢を持つことが、あらゆる交渉の出発点となります。

× 悪い例:相手が話している最中に、腕を組み、反論ばかりを考えている。

〇 良い例:相手の話に耳を傾け、「その視点は考えつかなかった」と、共感できる部分や理解できる部分を積極的に探そうとする。

この姿勢がなければ、どんなテクニックを使っても議論は平行線をたどるだけです。もしあなたが、パートナーとの話し合いで頑なになってしまう自覚があるなら、まずはこの「影響を受け入れる」という原則に立ち返ってみることが不可欠です。

最強の対話ツール「二つの円」で妥協点を探る

それでは、具体的な妥協の方法を見ていきましょう。ゴットマン博士が開発した「二つの円」メソッドは、複雑に見える対立点を整理し、共通の土台を見つけるための非常に強力なツールです。

やり方はとてもシンプルです。

  1. まず、紙に大きな円と、その内側に小さな円を描きます。
  2. 内側の円には、**「この問題において、これだけは絶対に譲れないと思うこと」**を書き出します。これは、あなたの核となる価値観や基本的なニーズに関わる部分です。
  3. 外側の円には、**「譲歩したり、柔軟に対応したりできること」**を書き出します。
  4. パートナーにも同じ作業をしてもらい、お互いの円を見せ合って話し合います。

ここでのポイントは、内側の円(譲れないこと)はできるだけ小さく、外側の円(譲れること)はできるだけ大きくするよう意識することです。譲れる部分が多ければ多いほど、パートナーを説得しやすくなる、とゴッマン博士は言います。

エピソード:「セックスレス」に悩む夫婦の例

ゴットマン博士のカウンセリングを受けた、セックスレスに悩むキャロルとレイモンド夫妻の例を見てみましょう。彼らは「二つの円」を使って、それぞれの本音を視覚化しました。

【キャロルの円】

  • 内側の円(譲れないこと)
    • セックスをするときは、愛し合っていると感じたい。
    • たくさん抱きしめ、愛撫してほしい。前戯を大切にしてほしい。
  • 外側の円(譲れること)
    • 夜のセックスが理想だけど、朝でも構わない。
    • セックス中の会話は、少なくても妥協できる。

【レイモンドの円】

  • 内側の円(譲れないこと)
    • もっとエロティックなセックスがしたい。セクシーな下着など、ファンタジーの要素が欲しい。
  • 外側の円(譲れること)
    • 疲れていても、朝でも夜でもセックスはできる。
    • セックス中の会話はもっと増やせる。

いかがでしょうか。当初、二人の欲求は相容れないものに見えました。しかし、円を描いてみると、「譲れない核」の部分は意外とシンプルで、外側の「譲れる部分」に多くの共通点や交渉の余地があることが分かります。

この円をもとに、二人は「親密さを求めるキャロルの夢」と「エロティックさを求めるレイモンドの夢」の両方を尊重する形で、具体的な妥協案(例:曜日によって朝と夜を使い分ける、前戯を丁寧にしつつセクシーな下着も試す)を見つけ出すことができました。

Win-Winの関係を築くために

「二つの円」メソッドは、単に要求をリストアップする作業ではありません。これは、自分とパートナーの「本当に大切なもの(夢や価値観)」が何であるかを理解し、それを尊重し合うための対話の儀式です。

自分の「正しさ」を押し通すWin-Loseの関係ではなく、お互いの夢を尊重し合うWin-Winの関係を築くために、この最強の対話ツールをぜひ活用してみてください。きっと、今まで見えなかった解決の糸口が見つかるはずです。


まとめ

  • 「正しさ」をめぐる争いは関係悪化の最大の要因
  • 妥協の前提は「相手の影響を受け入れる」姿勢
  • 「二つの円」メソッドで「譲れないこと」と「譲れること」を明確化
  • 外側の円(譲れること)を大きくする意識が大切
  • お互いの「本当に大切なもの」を理解し尊重することがWin-Winへの道

参考文献

“The Seven Principles for Making Marriage Work”, John M. Gottman, Ph.D., 1999

更新日: 2026年1月7日

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