13 原則3「背を向けず、向き合う」- 日常の小さなやり取りが愛情を育む
皆さんは、夫婦の愛情を深めるために最も大切なことは何だと思いますか?豪華な記念日ディナー、ロマンチックな海外旅行…そういった特別なイベントを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、40年以上にわたり数千組のカップルを科学的に研究してきたジョン・ゴットマン博士は、夫婦関係の未来を左右するのは、そうした非日常のドラマではなく、**日常に隠された「ささいなやり取り」**であると断言します。
ゴットマン博士の研究室「ラブ・ラボ」では、夫婦が一緒に過ごす様子を詳細に観察します。そこにあるのは、映画のような劇的なシーンではありません。窓の外を眺めた夫が「わぁ、あの船を見て」とつぶやき、妻が雑誌から顔を上げて「ええ、本当ね」と応える。ただそれだけの、ありふれた光景です。
しかし、このような瞬間にこそ、二人の関係の真実が隠されています。博士は、パートナーからのこのようなささいな働きかけを**「ビッド(bid)」**と名付けました。ビッドとは、相手の注意や愛情、ユーモア、あるいはサポートを求める小さなサインのことです。そして、このビッドに対して、相手がどう応答するかが、二人の関係の運命を分けるのです。
愛情の銀行口座に預金を
ゴットマン博士の追跡調査によると、結婚生活が6年後も続いていたカップルは、ラブ・ラボでの観察中、パートナーからのビッドに86%の割合で「向き合って」いました。一方で、離婚に至ったカップルが「向き合って」いた割合は、わずか**33%**でした。この差は、驚くべきものがあります。
「向き合う(Turning Toward)」とは、相手のビッドに気づき、肯定的に関わろうとすることです。反対に「背を向ける(Turning Away)」とは、ビッドを無視したり、ぞんざいに扱ったりすることです。
ゴットマン博士は、このやり取りを**「情緒的安定性のための銀行口座(Emotional Bank Account)」**という比喩で説明します。パートナーのビッドに向き合うたびに、あなたの口座には愛情という名の「預金」が積み立てられます。この預金は、関係が困難に直面したとき、ストレスや対立という「引き出し」に耐えるための重要なクッションとなります。日常の小さなやり取りの一つひとつが、二人の未来への投資になっているのです。
なぜ「向き合う」ことができないのか
多くの夫婦は、悪意からではなく、無自覚のうちにパートナーへ「背を向け」てしまいます。ゴットマン博士は、特に現代のカップルが陥りやすい2つの障害を指摘しています。
1. 怒りや不満に隠された「ビッド」を見逃す
ビッドは、必ずしも優しくポジティブな形で示されるとは限りません。特に、関係に不満が溜まっているときは、怒りや批判といったネガティブな感情に包まれて差し出されることがあります。
× 悪い例
妻:「あなたって本当に家事に無頓着よね!私が昨日畳んでおいた洗濯物、まだソファの上に置きっぱなしじゃない!」
夫:「なんだよその言い方は!こっちだって疲れてるんだ!そんなに気になるなら君がやればいいだろ!」
この会話では、夫は妻の「批判的な口調」に反応し、防御的になっています。しかし、妻の言葉の裏には、「家事が溜まっていて一人では大変なの。お願いだから手伝ってほしい」という切実なビッドが隠されているのです。このビッドに気づかず、言葉の表面だけを捉えて反撃してしまえば、事態はエスカレートする一方です。
〇 良い例
妻:「あなたって本当に家事に無頓着よね!私が昨日畳んでおいた洗濯物、まだソファの上に置きっぱなしじゃない!」
夫:(一呼吸おいて)「ごめん。疲れてるのに、余計な仕事を増やしてしまったね。今すぐ片付けるよ。」
ここで夫は、妻のトゲのある言葉の裏にある「助けてほしい」というニーズを汲み取り、それに応えています。このように反応することで、妻の怒りは収まり、建設的な話し合いへの道が開かれます。パートナーの言葉がネガティブな感情に包まれているときこそ、その言葉の裏にある「本当の願い」は何かを考えてみることが重要です。
2. テクノロジーによる「注意散漫」
現代の夫婦関係におけるもう一つの大きな障害は、スマートフォンやPCといったデジタル機器の存在です。家にいても、夫婦がそれぞれ別の画面に見入っていて、会話がない。そんな光景に心当たりはありませんか?
ある父親が、生後3ヶ月の赤ちゃんの前で舌を出してあやしていました。赤ちゃんがその動きを真似するまでには、1分ほどの時間が必要です。根気よく赤ちゃんの顔に注意を向け続けた父親だけが、赤ちゃんが一生懸命に舌を出して真似をする、という感動的なコミュニケーションの瞬間を目撃できます。途中でスマートフォンに気を取られた父親は、その貴重な「ビッド」を見逃してしまうのです。
これは夫婦関係でも同じです。パートナーが話しかけているのに、スマホの画面から目を離さずに「うん、聞いてるよ」と返事をする。これは、無意識のうちに行っている「背を向ける」行為に他なりません。
この問題に対処するためには、夫婦間でテクノロジーに関するエチケットを設けることが有効です。
- 食事中や就寝前の時間は、お互いにスマートフォンを置く。
- パートナーと会話をするときは、相手の目を見て、他の作業の手を止める。
- 休日は意識的にデジタル機器から離れる時間を作る。
このような小さなルールが、お互いの注意を相手に向けさせ、関係の質を大きく向上させます。
まとめ
結局のところ、夫婦のロマンスや情熱は、日常の些細な瞬間に宿っています。パートナーからの働きかけに気づき、温かく向き合うこと。その小さな積み重ねこそが、あらゆる困難を乗り越えるための、最も強く、そして確かな「愛情の預金」となるのです。
まとめ
- パートナーからの「ビッド」に気づき、向き合うことが関係の鍵
- 幸福な夫婦は86%のビッドに応答、離婚夫婦は33%のみ
- 「情緒的安定性のための銀行口座」に愛情を預金しよう
- 怒りや批判の裏にある「本当のニーズ」を見極めよう
- テクノロジーに関するエチケットを設けて、注意散漫を防ごう
参考文献
“The Seven Principles for Making Marriage Work”, John M. Gottman, Ph.D., 1999
- パートナーからの「ビッド」に気づき、向き合うことが関係の鍵
- 幸福な夫婦は86%のビッドに応答、離婚夫婦は33%のみ
- 怒りや批判の裏にある「本当のニーズ」を見極めよう
- テクノロジーに関するルールを設けて、注意散漫を防ごう
- 日常の小さなやり取りが「愛情の銀行口座」への預金になる
参考文献
“The Seven Principles for Making Marriage Work”, John M. Gottman, Ph.D., 1999
更新日: 2026年1月7日


